陳述書
          陳述書(三)

                               株式会社東亜システム代表取締役社長
                                                       吉  岡  一  栄
 前回(第三回)の控訴審の際、受付印の入った決算申告書を証拠として提出する約束を しました。会社へ帰って直ぐ決算申告書の控えを見ると受付印は押されていませんでした 。早速、会計事務所に電話で問うと「長野税務署から受付印を頂けるのは申告書の持ち込 みと同時に控えを持参し、その控えに受付印を頂けるのであって、後になってからではど のような事情があろうとも受付印を頂く事ができません。当然、当事務所のように郵送の 場合は決して受付印を頂く事はありません。」との回答でした。今までの経緯から、ほん のささいなミスを見つけてはクレームを付ける被控訴人の代理人は「受付印が無い」と言 う重要な事に関しては、また巧みな攻撃をして来ることが想定できます。何とか税務署に 提出した決算書と同じ控えである事を証明できる方法が無いかといろいろ考えました。そ れで会計事務所にて控えを袋とじした後、割印をして頂き、それを税務署に持参、税務署 に保管されている申請書と全てのページが同じである事を確認して頂いた後、ゴム印と割 印を長野税務署総務係長の小松章一氏に押して頂きました。その時の状況を付け加え説明 しますと持参した書類はこちらサイドの控えの為、代表者の私と経理責任者の署名捺印が なく、また平成三年と四年では印鑑も違い、四年の経理責任者は妻の署名であることも指 摘され、「たとえ控えであれ署名と捺印が税務署の保管書類と違いがあれば、税務署とし てゴム印と割印をさし上げられません。」とのことでしたので、急きょ、妻を呼び付け私 と一緒に控に署名捺印し、小松氏からゴム印と割印を頂く事ができました。(甲第七十号 証、甲第七十一号証)以上を私の代理人に送ったところ「まだ買い掛けが残っているので 平成五年以降の決算書も提出して欲しい。」と言われ至急送りました。(甲第七二号証、 甲第七三号証、甲第七四号証)尚この分は一月二十二日の期日に間に合わせる為に同じよ うな割印はもらっていませんが、平成三年、四年分と同様、税務署に提出したものと同じ である事は間違いありません。

 第一回、第二回の控訴審の際に私が陳述書を提出できたことを大変嬉しく思っています 。裁判を経験するのが初めての私は、一審の裁判の際に事実過程や陳情などは私自身の証 人尋問の時に十分主張できると思いこんでいた為か、陳述書の提出は考えもしませんでし た。多数の証拠書類の提出の遅れを含め陳述書を提出しなかった事を考えると残念でなり ません。控訴期間中は決して悔いが残らないようにとの思いでいっぱいです。最後の陳述 書のつもりで事件発生から今日まで私がどんな行動をし、どんな悲惨な生活を過ごして来 たのか書かせて頂きました。ぜひご理解をお願い致します。

 平成三年、六月分の代金の支払月の八月末、「NEC長野営業所の長い期間の架空取引き により生じた損金の穴埋めに東亜に支払うべき商品代金を使っていた。」とNECの丸山 氏から聞かされ、騙されたことに初めて気付きました。その頃NECの社員の伊藤氏から も「長野営業所全体が架空取引きで穴を開けてしまい、丸山が一番ひどかった。本社から 社長が来て丸山ともめている。」とも聞きました。

 私は早速被告会社の親会社であるNECホームエレクトロニクスへ行き、総務部法務文書 の高橋課長に本件の内容を説明しました。その時「あなたの主張されていることが正しい と言うなら裁判でもなんでもやり、その際、あなたが言う、架空取引きや、偽造文書の件 もはっきりさせたらいかがですか」との対応でした。しかし、いざ実際に裁判が始まると 一転し、「本件訴訟はNECが購入したとされる商品の支払い請求事件であって、NEC の口座流用とは取引形態が正反対、何ら結びつくものでない。」(被告からの準備書面の 五)と主張され、未だに何も明らかにされていません。ただし、NEC側から悪びれず公 然と「口座流用」を自ら公言してきたことには大変驚きました。また「NECの社員の伊 藤、阿部がマイクロパックへ行ったのは商品の戻入品の引き取りであって、原告からの購 入商品の引き取りではない。」(NECからの準備書面の二)と主張しています。戻入品 となると、それ以前に私どもがNECから、パソコンの購入をしていなければつじつまが 合わない訳で、その経緯があるというなら私どもの受領のある伝票が存在するはず、その 証拠提出を幾度も求めました。しかし、全て無視されています。この件に関しては「口座 流用とは取引形態が正反対、何ら結びつくものではない。」との主張は意味合いが違うと 思います。

 本件の代金の入金が無い為、大口の仕入先であるFCSの野沢社長には非常に迷惑をかけ ました。商品代金の支払いが遅れた事、さらには当初の条件にない手形による支払いにも 応じて頂きました。「そんな良い社長には絶対に迷惑をかけられない。」との思いから、 サラ金(高利貸し)からも借り入れをし、手形の決済日までには何とか間に合わせました 。前回の陳述書にも書きましたが、商品の売買が誰の目から見てもはっきりしており、数 ヶ月程度で判決が出て商品代金を回収できるものと確信していたから高利貸しからも借金 したのです。また、知人、友人、取引先の会社など、わずかなつながりを盾に頭を下げ借 金の申し込みに行きました。その中に十数年前に知り合った久保田氏も含まれていました 。彼は現在「優政会」(NECの代理人が言うには)と言う右翼団体の一員だそうです。 「吉岡さんの会社は景気がいいって言う噂なのに金を貸して欲しいって、冗談でしょ?」 の一言に私はむきになり、本件の事を細かく話しました。「それじゃあ、NECから詐欺 にあった訳だ」と言い、その数日後にはNEC本社前で街宣カーのスピーカーで騒いでい たとのことです。その事を一審の原告代理人からの連絡で知り、電話で直ちにやめるよう お願いしました。(第十六回調書の94)証人尋問の際その事を伝えると、被告代理人は 私に「あなたはすごい人ですね、電話一本で右翼を動かせるんですねー。」と言い。その 前には「優政会と言う右翼団体に本件訴訟が有利に運ぶように計らってくれないか、と依 頼したのではありませんか。」(第十六回調書の92)などとわざとらしく質問している 。右翼に街宣カーで騒ぎ立てる事を依頼した側が不利にはなる事はあっても、有利になる なんて事は到底有り得ない。その程度の事は子供でも解りそうな事。裁判官に私の印象を 悪く見せる為には手段を選ばない行為はゆるすことができません。支払うべき代金を支払 わず、商品を騙し取った犯人の代理人が被害者に対して取る態度とはとても思えません。 「正義感が強く弱者を救済するために努力するのが弁護士」との以前からの私の認識はも ろくも崩れ去りました。

 長い間取引きをして頂いていた八十二銀行に対し、「騙したNECが悪いのであってこち らは被害者。冷たい事を言わないで助けて欲しい。」と主張しても、「事件の内容は知っ ている。しかし、騙されるような経営者のいる会社では今後も先が思いやられる。」と本 件事件のため手を引かれ、会社のイメージが悪くなり、噂だけで取引会社が減って行くと 言う最悪の事態になりました。八十二銀行は長野では最大級の銀行でそこが見切りを付け たとなると当然な事と思います。さらに得意先の振り込み入金と社員の給与振り込みの銀 行の変更など銀行から手を引かれる事の重大さとそれに費やす苦労は、NEC側には到底 理解できないでしょう。

 いろいろな所へ借金のお願いに行った事は前項でも述べましたが、その都度、悔しい思い をしながら帰って来ました。

 本件事件の翌年から私の給料を月十万円に減給し、生活を切り詰め貧しい日々を過ごしま した。さらに社員全員の厚生年金と社会保険をやめ会社負担のない国民年金と国民健康保 険に切替えました。しかし、それだけはわずかな期間でまた戻しました。理由は「厚生年 金、社会保険もないなんて会社じゃない。」と一部の社員にさげすまされたためです。

 「NECにさえ騙されなかったらこんな惨めな思いもせずにすんだのに」と思い、「でき る限りのことは全てやらねば」との決意でNEC長野営業所の社員の言う、架空取引きの 実態の調査を始めました。まず最初は運送会社の送り状の確保、NECの名が無くても各 販売店の名義を使用していたとの情報から関連するもの全て入手できるよう協力して頂き ました。さらに販売店に届く請求書、領収書、送り状などの入手も試みました。しかし、 たとえ顔見知りであってもほとんどの店は私に協力(請求書等のコピーなど)する事によ り「今後NECとの付き合いができなくなるのでは」と恐れ、協力してくださったのは証 拠書類としてすでに提出済みの数件の店だけでした。

 捜査権のない私に証拠集めは困難と言うことが次第に解ってきた為、警察にお願いするし かないとの思いから長野県警中央署、刑事二課へ行き、事情説明をしようとしました。し かし「おまえ、会社の社長か、儲ける時だけ儲け、損した時だけこうやって警察に来やが る。」と門前払いされ、次の日も行きましたが、昨日とは別の刑事が「おまえは民事裁判 では時間がかかるのを知って警察を利用する魂胆か」と再び門前払い、私は警察不信にな り、もう警察には頼むのはやめようと思うようになりました。それから一ヶ月位後、「南 署の浅田刑事は絶対に信頼できる刑事だから、お願いしてみな」と、古い友人に薦められ 半信半疑で南署へ行きました。浅田刑事は告訴状を受理して下さり、四日間毎日、朝から 夜遅くまで私の話を聞き、数百枚にのぼる調書を作り終えました。「調書の作成が一番大 変で刑事の一番嫌がる仕事さ、これさえできれば事件がかたずいたようなもの。吉岡君よ くがんばったな。あとしばらくの辛抱だ」と励まされました。しかし、それから数週間後 、浅田刑事は他の署へ転勤となり、南署にはこの事件を引き継ぐ刑事は居なくなりました 。警察には任せておけないとの思いから、再び、証拠の資料集めのため独自で販売店や宅 配業者を廻りました。その時手に入れた書類の中に被告会社から長野県上田警察署宛ての ワープロの送り状があり(甲第七六証)、早速、受取人である町田部長に電話で代金支払 いの件を確認したところ最初は「NECの銀行口座に振り込んだ。」と言っていました。 しかし、たとえ警察官に販売するにしてもNEC営業マンはNECと販売契約のある販売 店の名を借り振り込みも販売店の名で行うはずと不信に思い、振り込み用紙の件などのそ の他いろいろな事を質問していくと、町田部長は、とうとう「パソコン、ワープロなど、 もらっている警察官は自分だけではない。」とまで言い出しました。早速、その送り状の コピーを持参し、南署へ行き、話しをすると、五、六人の刑事に囲まれ「町田部長が金を 払ってない証拠があるのか、その証拠を見せてみろ」と言われ、私は「払ってない証拠な んて見せられる訳が無い、実際に払ったと言うなら銀行振込用紙、もしくはNECの領収 書を私に見せて下さい。」と言うと「おまえ自分の言っている事が解っているのか、何で そんな物を見せる必要があるんだ、てめえに捜査権があるのか」と言われ、その時は「警 察はきたない、もういい、卑怯者。この事件を捜査しない理由も解った。」と罵り、帰っ て来ました。いままでは数人の刑事に不信をいだいていた程度でしたが、長野県警は組織 的に不正をしている様な気がしてなりませんでした。そしてすでに警察に頼るのをあきら めていた事件から2年以上過ぎたころ「捜査を開始するので調書作成のため来てくれ。」 と南署から連絡が入り、再度の事情聴取となりました。そして驚く事に今度の担当刑事は 中央署で私を門前払いした山崎刑事でした。雰囲気がどうもおかしく、すでに浅田刑事の 作成済み調書があるはずなのに、同じ事を幾度も聞いたり、私の言っている事の肝心な部 分を削ったり、さらに「被害届けを取り下げたらどうだ。」などと想像を絶することも言 われました。

 その後、長野県警は平成六年三月に丸山氏だけを検察庁に書類送検しました。しかし、 県警刑事は検察官に対して丸山氏の心証を良く見せる為か、書類送検の数日前に二万円だ け私の銀行口座に振り込ませています。一回でも支払いがあれば、「支払う意志がある」 とみなさら、詐欺にはならない事を刑事自身が逆にうまく利用しているのだと思います。 私の妻の事情聴取の際に担当刑事が「丸山は金を振り込んであるだろう。」等と発言して いる事も不自然です。仮にその丸山氏が主犯と言うならば証拠隠滅、逃亡のおそれから逮 捕、取調べが常識なはずで全く納得ができません。

 書類送検から間も無く三年(事件から五年半)になろうとしていますが検察庁の動きは なく、NECの思惑どうりに事は運んでいるようです。それは、書類送検は丸山氏一人で あるのに、調書がNEC長野営業所の組織犯罪である様な内容であるため、検察庁の検察 官が戸惑っているのかは解りません。

 私は検察庁へ何度も問い合わせをしていますが、その度「我々公務員は守秘義務がある ため、たとえ関係者、当事者であっても捜査状況、終了期日、内容等は一切お応えできま せん。ただ捜査中と言う事だけは伝えておきます。」と答えが返って来るだけでした。問 い合わせの度、江端検事、佐藤検事、瀬戸検事と担当検事が転勤のためか変わり、事件の 内容も把握できていない様子です。

 検察審査会事務局へも電話をしています。「検察で起訴、不起訴が確定し、それが不服 の場合、被害者の訴えにより当方が関与出来るのであって検察が捜査中と言う事であれば 我々は何ら手の出しようが無い。」とのこと。「検察庁は何年過ぎても[まだ捜査中]と 言い張っていれば不服申請のできない事を承知している。」と感じました。

 また先日、NECの行った内容を明らかにしようと思い、NECの元社員の長沢久美子 さんに一度だけ電話をしました。本件の話しをしているうちに「警察官に商品仕入れにつ いて聞かれたので、正直に、[吉岡さんの所から仕入れをしていたので当然、自分もその ことを知っていた]と応えました。」と、長沢さんに言われました。そこで「その内容を 裁判所宛てに陳情書を書いて欲しい。」とお願いし、電話を切りました。しかし翌日、「 吉岡が長沢さんの自宅へ押しかけ、[陳情書を書くまで何度でも来るからな]と脅してい る。直ぐやめるように、やめないなら仮処分をかけるし、裁判所にそのことを知らせる。 」と私の代理人を通じ、NECの代理人から連絡が入っていることを知りました。私は電 話を一回かけ話しをしただけで、住所を知らないのに「自宅に押しかける」ことをできる はずがないし、電話の最初に私は名前を告げなかったのに長沢さんは「吉岡さんでしょ、 なつかしいわね。」と喜び、NEC退職後すぐ結婚したこと、そしてすぐ子供が生まれた 事、長沢さんの名字が変わらなかったのは婿養子であることなど、細かく話してくれたほ どです。

 NEC側は私のわずかな行動を何らかの形で察知しては、誣告し、本件の実態が明らか にされないための小細工を懸命にしようとしているようにしか思えません。

 日時が前後しますが本件事件の翌年、期日が過ぎても借金返済のできない私の為に、家 族の身の安全が保証されない状態になりました。「金を返せ」「殺してやる」「家族がど うなってもいいのか」などの電話の他に無言電話も毎日ありました。小学二年だった長女 は怪しげな人物に学校から家まで後をつけられ、恐い思いを幾度もしていました。その怪 しい人物がサラ金業者なのか、誰なのか現在でも全く解っていません。私は妻や子どもた ちの身を守る為に離婚を決意し、戸籍を外し両親の住む市営住宅に移りました。(甲第七 七号証)大事な時期で成長過程にある小学六年だった長男に「近所の人はお父さんの事を いろいろな新製品の開発をしていて偉い人、とほめているけど、人に騙されて財産が全部 なくなって、しかも家族も一緒に暮らせないようになったのはお父さんのせいだ、別に偉 くなくても普通の生活ができた方がいい」と言われ、自分だけが苦しんでいたのではなく 、家族全員もダメージが大きかったことが改めて思い知らされました。その長男は長い期 間、精神的に大部まいっていたためか今でも時々変な言葉を口走り、意味不明の話しを始 めるので機会を見て精神鑑定をしてもらうつもりです。それらも含め「片親と言う事が理 由で[いじめ]にあえば可哀相」との妻の意見で長男の中学入学手続きをきっかけに四ヶ 月程度で戸籍だけは復縁(再婚)しました。しかし、別居はその後も続けました。

 平成四年十二月にやっと自宅が売れ、(甲第七八号証、甲第七九号証)高利貸しからの 借金は返済でき、会社の事務所の狭い二階でしたが家族四人が久しぶりに一緒に暮らすこ とができました。前項でも書きましたが、私はマイクロパック設立当初からの取り引きを していた八十二銀行にこの一件で手を引かれ、平成四年三月には八十二銀行から借りてい た八百万円を返さざるをえなくなり、長野信用金庫に頭を下げ、自宅に二千万円の根抵当 権を付け、借金をしました。自宅を売った時に長野信用金庫とサラ金への借金返済ができ たのです。(甲第七八号証、甲第七九号証)

 その後、社員の厚生施設用にと用意しておいた土地も売りました。おかげでアパートな どを転々とし、合計で五回の引越しをし、子供たちには通学のために大変な苦労をさせて しまいました。一度は学校まで十km以上の所に住んだため、バスに乗り遅れたときは家 に帰るのに夜道を三時間以上も歩くなど、つらかったと思います。

 この事件が発生してそろそろ五年半になります。引越し費用だけでなく、裁判費用、弁 護士費用、高利の金利などを含めると、それだけでも四千万円以上、またその外にも私が 証拠集めや資金繰りの為に使った時間を本来の業務に当てていれば利益になる訳で、膨大 な金額を損失した事になります。それらを含め本件訴訟で請求している金額以外に発生し た損害はまだまだあります。又、つらかった出来事なども書き上げればきりがないのでこ のくらいにします。

 本件の商品代金が全て入金されても、膨れ上がった借入金は、全てを返済できるもので はありません。又スーパー、病院、学校に歩いて五分から十分と言う便利だった自宅は到 底買い戻す事などできる訳がなく、前項でも述べた様な悲惨な生活を過ごした屈辱は一生 忘れられず、私と家族の心の傷は簡単には拭えないと思います。それでも一日でも速く本 件裁判が終わり、費やす時間の全てが会社運営と製品開発であれば、つらかった出来事の 記憶も次第にうすれ、思い出す時間も少なくなる事と思います。
         平成九年一月十八日

                       長野県長野市大字安茂里2169―1
                                    吉岡一栄



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